あー、なんかさみーな。そういえばもう運動会も終わったし、十月も半分過ぎたんだっけ。
カーテンから差し込む光で朝なのはわかってたけど、眠くて目が開けられない。布団の中で横向きになり抱き枕を抱えたまま、外を走る車の音を聴いていた。肌寒いけど、この枕のお陰であったかいな。でも俺こんなの買ったっけ? 柔らかくていい匂いがする。だけどやけに重たいな。不良品じゃねーの? これ。
ゆっくり瞼を上げると、俺の目の前には抱き枕ではなく、なぜか人の頭があった。頭っていうか腕の中に女の子がいた。
「!!!」
うおおおお! 叫びそうになるのを必死でこらえる。ちょ、え、えええ!? 待て待て待て、何だよこの展開は! ここ全年齢ですよね? ほのぼのしてんだから、らしくないシチュとか有り得ないですよね!?
目の前の女の子が起きないように、顔を動かさず目だけで辺りを見回すと、確かにここは俺の部屋で、俺の布団の中だった。少しだけ顔を上げると、見慣れた目ざまし時計がチラリと見えた。針は十一時を指している。朝だと思ってたけど、もう昼か。
「……」
裕介ええええ! お前何してくれちゃってんだよ! どうしてこうなった。この状況が全くわからない。恐ろしいことに何も覚えちゃいない。
いや、冷静になってよく考えてみよう。まず、目の前にいるこのコは誰なんだ? 俺は今彼女はいない。ってことは、昨夜誰かをお持ち帰りしたことになる。昨日は……そうそう、先生たちと俺の友達とで合コンしたんだ。それでその後、確か……。
まさか、だよな?
小さく息を吸い込んで、女の子の顔をそっと覗き込んだ。艶のある栗色の髪。近づいた時の香り。
「!!!」
また悲鳴を上げそうになったのをぐっと堪える。嫌な予感は的中した。
り、りりりりりり梨子先生!? 寝ぼけて間違っていないか、もう一度よく見る。やっぱり、俺の腕の中ですやすやと眠る女の子は、どう見ても職場の先輩、ひよこ1組の担任、そして、気持ちを早いとこ諦めようとしてた人だった。
――裕介! 職場恋愛は絶対に禁止だからな!
親父の声が頭を過ぎる。ってか頭をがんがん殴ってくる。
いやいやいや、これやべえ、ほんっとやべえって!! だってさ、この状況はどうみても……ヤッちゃったよな? いや、ちょっと待て。ちゃんと確かめた方がいい。
左腕の上に梨子先生の頭があるから動かせない。俺は空いている右手で自分の体を触った。よし、ロンT着てるな。脱いでない。ごそごそとまさぐり下半身へ手をやる。下は……パンツだけだ。これ微妙おおおお!! 気付かないようにしてたけど、ずっと梨子先生の感触が俺の足に直接当たってるんだよな。ってことは、梨子先生は……。
ごくりと唾を飲み込んで、そっと右手で掛け布団を持ち上げた。温かな空気と彼女の香りがふわりと顔を掠める。
……梨子ちゃん俺のロンT着てるううう! そんでやっぱりスカートをはいてない。下着だけで太ももが露わになっていた。さっきから、この柔らかい太ももが当たってたわけだ。
顔と背中から、同時に冷や汗が出てきた。
もしこれで本当にヤッちゃってたとしたら、俺は明日からどうすればいい。梨子先生だって、絶対やりづらいよな仕事。頭の中が真っ白で何も考えられない。入園式の時よりひどい。
「うー……ん」
その時、目を閉じたままの梨子先生が、一人悶々としている俺の胸元へギュッとしがみついてきた。俺の胸に顔を押し付けた彼女の体が温かい。
……嬉しくもなんともなかった。何だよ、彼氏と間違えてんのか?
俺は梨子先生を諦めようとしてたのに。人の気も知らないで、彼氏いんのに合コン行ったり、挙句の果てに平気でこんなとこ来て泊まってさ。どうせ俺のことなんかただの後輩で、男扱いしてないって意味なんだろ?
無性にイライラした俺は、梨子先生の唇に顔を寄せて、腕の中に閉じ込めようとした。
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