兄貴の嘘に翻弄されてから一週間が経った。
栞にこの前みたいに日曜日にどこかへ行こうと誘ったけど……断られてしまった。次の予定を聞いても、いつになるかわからないとしか栞は答えてくれない。やっぱり嫌われたのかと落ち込んだりもしたけど、俺に対する栞の態度は以前と変わらなかった。回数は減ったけど昼も食べるし、帰りも一緒に帰って今まで通り楽しそうに話もする。
俺の気にしすぎなんだよな、きっと。
今日は球技大会で、これが終わればもう冬休みになる! ここは気分を変えて、デートの計画を練ろう。クリスマスにスケートリンクに行く約束もしてるんだし、大丈夫だよ大丈夫。と自分を励ましつつ、何とか平静を保っていた。
球技大会はクラス混合で行なわれる。しかも男女混合て。これ意味あんのか? まあ、年に一度だけでも他のクラスの奴との交流を、ってことなんだろうけどさ。それにしても何で春じゃなくて冬にやるんだよ。暑い時期にやるのも嫌だけど、寒いのも修行みたいで相当つらいんだよな。
種目は、バスケ、ハンドボール、バレーボールに分けられる。俺はハンドボールで相沢と同じチームになった。後は他のクラスの奴と組む。場所は外のハンドボール専用のコートだった。
はっきり言って……相沢とこんなに気が合うとは思ってもみなかった。本当、こいつって意外だよな。一、二回戦目は俺と相沢がほとんど点を入れて勝ち、準決勝は他のメンバーがついて来れずに負けてしまった。あとちょっとだったのに、かなり悔しい。
「惜しかったよな」
試合直後、座って休んでいた相沢に声を掛ける。
「……練習すれば勝てたかも」
珍しく相沢も不満そうにしていた。
「今度やろうぜ。昼休み」
俺の言葉に相沢が顔を上げて、にやりと笑った。
「……だな」
ふーん、いいじゃん、なんか。俺も何だか嬉しくて思わず一緒になって笑みを浮かべた。他のクラスの奴じゃなくて、相沢と交流深めちゃったよ。相沢は彼女の所に行くと言って立ち上がり、その場を去った。俺も栞の所へ行こう。まだ試合やってんのかな?
栞が参加しているバレーボールを応援に体育館へ行くと、もう決勝戦が始まったところだった。何だよ、結構盛り上がってんじゃん。
立ち上がって応援している女の子達の後ろに俺も立つけど、彼女達は皆試合に夢中で俺に気がつかない。ちょうどいいや。ゆっくり見物できる。
あ、栞がいた……! すげー、決勝まで残ったのか。あー頑張れ! 栞! 頑張れー! 恥ずかしいから心の中で応援する。
決勝に残るだけあって、皆結構上手いな。男三人、女三人の混合で六人のチームだ。その中にやけに上手い奴が一人いた。あ、あれ文化祭で栞に声かけてきた奴じゃなかったか?
「ね、やっぱり桜井くんて上手いよね」
目の前に立っている女の子二人が話し始めた。ああ、そうだ。桜井って名前だった。
「うん。あの人さ、何でも上手くない? サッカーもだし、バスケも。部活は陸上だっけ?」
「桜井くんて人気あるよねー。やっぱりこういうの見ると、ときめくわ」
へえ、何でもできるんだな。マジで上手いや。栞も結構そいつにサポートしてもらってる感じだしな。
「あれ? 桜井くんてさ、ほらあそこにいる鈴鹿さんだっけ? 付き合ってなかった?」
「結構前ね。あたし二人と同中だったんだ。確か中三の終わりの方」
「何で別れちゃったの?」
「さあ……よくわかんないけど、でも確かすぐに別れちゃったんだよね」
あいつと、栞が……?
大きな歓声が体育館中に響き渡っている。その声も、ボールを打つ音も、やけに遠くに感じ始め、久しぶりに俺の頭がガンガンと音を鳴らし始めた。
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