美緒と別れた後、校内の売店に寄り何かないかと探すけど、別に欲しいものもなく結局自分の教室がある校舎に戻った。廊下を歩いていると二人の女の子が声を掛けてくる。
「ちょっと涼! 別れたって本当?!」
でかい声で言うなよ。つうか何でお前が知ってるんだよ。
「ああ、まあ……」
「じゃあさ、あたし夏休み限定で彼女候補、どう?」
「あたしは期間限定じゃないのがいいなー」
なんか引く。引いてるぞ、俺思いっきり。いつもならノリで返す所だったけど、全然まるでちっともそんな気になれなかった。
「いや、もうしばらくいいや。じゃな」
二人に一言言って自分の教室に向かう。教室に入ると、うっわ女子の視線が痛い。っていうか何でお前ら皆知ってんだよ。
「涼、ま、お疲れさん」
高野は手元でゲームをしながら顔も上げずに言った。
「……何か奢ってくれよ」
椅子に座り、高野の手元を見る。
「やだね。お前どうせすぐ次作るんだろ? 悲しむ間も無く」
「つーか、お前が振ったんだろ? あんなにかわいい子の何が不満なわけ?」
高野の横にいた、
「……何がって、別に。何となく」
俺が答えると高野が顔を上げた。
「そういう事言う奴に奢ってやる金なんか一銭もございません!」
「……あっそ」
ま、確かに俺が振ったわけだし、しかも言われてみりゃ大した理由もなく別れたんだから、やっぱり俺が悪いのは当たり前か。
その時俺の机の横を鈴鹿さん、が通り過ぎた。同時に何かが机から落ちる。
「あ、ごめん!」
慌てて彼女はそれを拾った。
「あ、いいよ。大丈夫」
「汚れちゃったかな。ごめんね」
落ちた教科書の汚れをぱたぱたと払い、こちらへ差し出した。俺がそれを受け取ると、当たり前だけど彼女は去って行った。
「いいよな、鈴鹿さんって」
高野が小さい声で言った。
「は?」
「可愛いし頭良さそうだしさ、控えめっての? 彼氏いんのかな」
「さあ」
いねえよ、そんなもん。相沢に振られたばっかりだし。
「涼は、あんまりああいう子興味ないんだろ? もっと派手そうなの好きだよな。美緒ちゃんもそうだったし」
今言うか? それ。
女の子達が、俺が高野と話し終わったらこっちに来ようとしてるのが雰囲気でわかった。勘弁してくれ。
「別に……。俺喉渇いたから、自販機行ってくる」
椅子から立ち上がり、教室を出た。廊下を歩いていると、女子が俺を見て何か言ってる。何なんだよお前らは。俺は珍しい動物か。あからさまに不機嫌な顔をして、今日は近付くなオーラ全開にしてやった。
昇降口まで降り自販機の前に行くと、もうすぐ授業だからか人影も少ない。ああ、ほっとする。そう思った時だった。こちらに向かって来ているのだろうか、自販機の陰にいる俺からは姿は見えないけれど話し声が聞こえ、足音がだんだん近付いて来た。
「ねえ、涼ってさ、彼女と別れたんだってね」
「えーまた?! でも私も涼と付き合ってみたいんだよね」
「やっぱかっこいいしね。優しいしさ。次彼女作る前に告っちゃえば?」
「きっとそう思ってる子一杯いるよね、」
「あ……!」
二人は自販機の傍にいた俺にようやく気づき、こっちを見た。目が合った途端、しまったという顔をしたから、何も言わずに口の端だけ上げて笑ってやった。二人とも真っ赤になって小走りに去っていく。大丈夫、心配しなくてもお前らとは付き合わないから。って、あーなんか荒んでるな俺。性格悪い。
もう次の授業、さぼってやろうかな。何もかも面倒くさい。小銭を取り出し、何にしようか悩む。お茶って気分でもないし、コーヒーでもないな。炭酸、も違う。
「あ、」
後ろで小さな声がした。
振り向くと鈴鹿さんが立っていた。
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