告白現場を垣間見てしまったあの時から、一週間が過ぎた。
今日は天気もよく、空は抜けるように青い。午後もこの前とは違って雨の心配はなさそうだ。
渡り廊下から中庭に咲いている紫陽花が見える。紫陽花って場所だか時間の経過だかで、色変わるんだよな。確か歌であった気がする。
俺は目の前に自分の彼女がいるというのに、それも重大な事を口にしている筈なのに、うわの空で紫陽花を見ていた。
「え、ほんとに? 嘘」
「……ごめんな、悪いんだけど」
「な、何で? 美緒、なんかいけないことしたの?」
「そういうんじゃないんだけど、でもごめん。もう無理なんだ」
「やだ! やだよ。涼とずっと一緒にいる!」
とうとう目の前の美緒は泣き出してしまった。
「美緒が悪いんじゃないんだよ。ごめんな? ほんとに」
「好きな子、出来たの?!」
「好きな子はいないけど、美緒とはいい友達に戻りたいから」
さっきから口では謝ってるけど、心はこもってないし、すごい面倒に感じてた。嫌な奴だな、俺。
美緒は涙を拭きながら、下を向いて言った。
「……わかった。あんまり我侭いって、涼の事困らせたくないから我慢する」
「ありがとう。これからも友達でいてくれよな?」
「うん。でもずっと彼女できなかったら、また美緒のところに戻ってきてね? 待ってるから」
「あー……待ってなくていいよ。もっといい彼氏作れよ。な?」
「涼以外の彼氏なんてやだよ」
ふとその言葉を口にした美緒に対して疑問を持ち、聞いてみたくなった。
「……あのさ、何でそんなに俺がいいわけ?」
そうだ、今まで付き合った子皆俺にそう言うんだ。けどこんな男のどこがそんなにいいんだかわからない。性格悪いし、調子いいし、こうして泣いてる女の子慰めるわけでないし。しょっちゅう彼女取り替えてさ、ほんと、どこがいいんだ?
美緒は俺の顔をじっと見た。
「涼は優しいし、かっこいいし、頭も良くて、何でも出来て、友達もいっぱいいるし、それに、」
そこまで言って美緒は急に目を逸らした。
「美緒わかってたけど、涼って女の子に本気にならないでしょ? きっとそこがいいんだと思う」
「……え?」
何だそりゃ。
「本当は追いかけられたかったけど、美緒いつも涼の事追いかけてたんだよ? きっと今までの彼女も皆そうだよ」
「……」
俺は急に何にも言えなくなった。本気じゃない? 本気って何だよ。
「俺……別に美緒の事遊びで付き合ってたわけじゃないよ。今までの子も皆」
「怒ったならごめんね。でも涼、自分で気がついてないだけだよ?」
「……そう、かな」
「そうだよ。美緒、涼と付き合えて嬉しかったけど、ずっと苦しかったもん。でも好きだから一緒にいたかったし」
苦しい? 楽しくなかったのか? 何なんだよ。
「よく……わかんないけど、とにかくごめんな」
そう言って、美緒から離れた俺。
美緒と一緒にいて楽しかったし、このまま何となく付き合ってても別に良かったのかもしれない。けど、何かもう無理だった。それが何でなのかは、よくわからないけど。
まあ美緒はもった方か。えーと四ヶ月くらいだったか?
ほらな、こんなこと淡々と思ってる男のどこがいいんだよ。美緒には絶対もっといい奴がいる。
それにしても……本気じゃないってどういう事なんだよ。付き合って苦しいって、楽しくはなかったのか? 女ってほんとよくわからない。
俺は何となく校内の売店に向かって歩き始めた。
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