昼はあんなに晴れていたのに、午後には急激に天気が悪くなった。放課後、廊下や階段で何人かの女の子に一緒に帰ろうと言われたけど、一応断る。昇降口で待っているからと
美緒は今の彼女だ。俺とは別クラス。髪が長くて先っちょがくるくるしてる。顔も、まあ可愛い。なんていうか、少し我侭でよく甘えてくる、そんな感じだ。結構男に人気あるんだよな、これが。
雨の匂いと湿った空気が混ざり、
「あ、涼! 遅いよー」
「ごめん」
「雨降ってきたからさ、傘一緒に入ろうよ、ね?」
美緒は嬉しそうに俺の腕に触ってきた。何か、今日どうしたんだろ俺。美緒ですら……駄目だ。
下駄箱から顔を上げて外を見ると、ガラス戸越しに昼間俺が告白の現場を見てしまった鈴鹿栞、彼女がいた。彼女も帰りが遅くなったのだろうか、一人庇の下で立っていた。傘、ないのかな。俺、確か今朝持ってけって言われて、鞄に折りたたみ入ってたな。
「美緒、傘あるんだろ?」
「うん」
「じゃ、ちょっと待ってて」
俺は靴に履き替え、折りたたみ傘を取り出し、彼女に渡そうと外に出た。その時一人の男が俺と同じ様に、彼女に向かって歩いてきた。
あ、相沢?
「鈴鹿さん」
「あ……」
「傘ないなら、どうぞ。俺もう一本あるから」
そう言われた彼女は顔を真っ赤にしていた。
「……いいの?」
「うん」
彼女に折り畳み傘を渡した相沢は、普通の傘を差し彼女に背を向けた。
「今日、ごめんね。急にあんなこと」
「……別に構わないよ。じゃあ」
相沢はにこりともせず、そのまま立ち去った。
「あ、ありがとう」
彼女はもう聞こえないだろう距離にいる相沢に、小さい声でお礼を言った。そして傘を広げるわけでもなく、相沢が帰っていった方を見つめていた。
ずっと。
少しずつ雨足が強くなってきた。俺は足早に彼女の前を通り過ぎる。
何やってんだろ俺。
「涼、待ってよ! どうしたの ?!」
美緒と一緒の傘に入りたくなくて、さっき渡そうとした折り畳み傘を広げ、自分で差して歩いてた。後ろから美緒の不機嫌な声が聞こえる。美緒に待っててと言いながら、勝手に歩き出してるんだから怒るの当たり前だよな。でも、美緒の事よりも相沢から傘を受け取った彼女の事で頭が一杯だった。
俺がもう一度聞きたいと思っていた言葉は……あいつに向けられたものだった。
何だよ、ちくしょー。
あいつ、彼女の事振ったんだろ? それもさっき振ったばっかりで、何でああいう事するんだよ。だったら振るんじゃねーっつうの!
別に俺には関係ないけどさ。何でこんなに腹が立つんだ?
いつの間にか隣にいた美緒は、俺に合わせて無言で歩いていた。いつもだったらすぐに謝ってご機嫌取る俺なのに、美緒はちっとも悪くないのに、いつまでも雨の中を俺は口も利かずに駅に向かって歩いた。
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