片恋〜栞編〜

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4 見たくない表情




 今日は抜けるような青空の、気持ちがいいお天気。

 お昼休み、愛美と絵梨と三人で教室でお弁当を広げる。絵梨は二年になってからの友達。愛美同様何でも話せて、相沢くんに振られた事も知っている。私達三人とも、ついさっきまで別クラスの友達みんなと話していたから、食べるの遅くなっちゃったんだよね。クラスの皆はもうほとんど食べ終わっていた。

「鈴鹿さん、ちょっといい?」
 ドアの近くの席で食べていたから、入り口の所から声を掛けられた。
「杉村さん」
「相沢くん、呼んでくれる?」
「あ、うん」

 杉村さんは、別クラスだけど私達と同じ委員会だ。相沢くんの席は窓際だったから、ここから呼ぶのは無理だもんね。席を立ち、相沢くんの方へ向かう。
 相沢くんの席には他にも何人かの男子がいた。……声かけるの、ちょっといやだな。ううん、しょうがないじゃない。仕事なんだから。
「あの、相沢くん」
 一斉に男の子達がこちらを見る。その時だった。

「ねえねえ、涼別れたって!」
「えー! ほんとに?!」
 女の子達の声が上がる。……涼って吉田くんだよね? その声に目の前の男の子達もそちらに注目した。あ、助かっちゃったかも。今だ。
「杉村さんが呼んでるよ」
「ああ、ありがと」
 相沢君はすぐに席を立った。

 正直、杉村さんと一緒に居る相沢くんを見たくはなかった。何となく、何となくなんだけど、いつもあまり笑わない相沢くんが、杉村さんと一緒だとよく笑うような気がしていたから。
「鈴鹿さん、ありがとね」
 笑顔でお礼を言う杉村さんに、
「ううん」
 と返事をして、二人を背にして席に戻った。
 杉村さんは優しくて、明るくて、私にも相沢くんにも分け隔てなく接してくれる。素直で一生懸命で、ちょっとドジなとこもあって可愛い。そう、すごく可愛い人なんだ。

 お弁当、進まないや。だいぶ残してしまった。いつもなら大好きなエビフライなんだけど。お母さん、ごめん。
 もう振られたんだから、気にしてもしょうがないのに。
「栞、もういいの?」
「うん、なんかお腹いっぱい」
「……平気?」
「え、うん! もう全っ然平気だし! ダイエットだよ、ダイエット!」
 そう自分に言い聞かせる。二人を心配させちゃ駄目だ。

 愛美と絵梨もお弁当を食べ終わり、お弁当箱を袋に入れている時だった。
「じゃーね」
 杉村さんの明るい声がした。振り返ると、そこには杉村さんに手を振り、柔らかい表情で教室に入ってきた相沢くんがいた。

 あ、駄目だ私。どうしよう、ここにいたくない。咄嗟に財布を持って立ち上がる。
「ちょっと飲み物買ってくるね」
「……ん、行ってらっしゃい」
 二人は私の気持ちを察してくれたのか、何も言わずにいてくれた。

 昇降口の自販機へ急ぐ。もうすぐ授業だけど、でもやっぱり教室にはいたくない。相沢くんのあの表情を見たくない。私の勘違いじゃなければ、相沢くんはやっぱり、ううん、あの二人は……。
 胸の中がざわざわする。こんなこと思いたくないのに。

 廊下はひんやりとしていて、昇降口に向かうにつれて人が少なくなる。急ぎ足で歩いていると、女の子二人が赤い顔をしながら私の横を走って通り過ぎた。
「絶対聞かれてた!」
「でも笑ったよね?」
「もう、めちゃくちゃかっこいい!」
 どうしたんだろう?
 自販機の方を見ると、背の高い男の子がいる。


 私が振られた事を黙っていてくれる人……吉田くんだった。





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