先生やって何がわるい!

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(47) 実習生(1)




「今日から実習に入る、赤羽将也です」
「私も今日から実習に入ります、安達美宏です」
 よろしくお願いします! と俺たち一年目の前で、初々しい二人が頭を下げた。

「それじゃあ、みひろ先生は俺と一緒に花壇の水やりね。しょうや先生は裕介先生と一緒に竹ぼうきで園庭掃いて。麻鈴先生は鯉とインコの餌やり」
 だから何でお前が仕切るんだよ。女の子の実習生の方を自分と一緒に作業させるとかやらしい奴だな、ほんとに。無言で佐々木のドヤ顔を睨んだあと、男の実習生をこっちに呼ぶ。
「裕介先生、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。朝の仕事は一年目の役割だから覚えてね」
「はい」
 うん、まあ真面目そうだな。覇気がない気はするけど、それは入ってからどうにでもなるだろう。

 作品展も無事終わった二月の初旬。いよいよ四月から来る新人が実習にやってきた。
 一也先生だけが辞めるのかと思っていたら、同じうさぎ組の茂美先生も辞めることになっていた。こっちは結婚で、それを機に旦那の勤務地、地方へ行ってしまうかららしい。遠距離だったわけね。
 ということで男一人、女一人が新人として採用され今日から実習に入った。研修とも言えるのかな。

 それにしても……。なんだかなー、実習生二人の動きがすごく鈍く見えるんだけど、俺だけ?
 いや丁寧なのはいいんだよ。でもちりとり取りに行くだけで、何でそんなに時間かかってんのおおお? 水やりも遅いなあ。ちゃちゃーとやれよ、ちゃちゃーっとさあ。
 と思ったところで気付く。まさか俺も、そうだったのか? 一年前の実習の時、梨子先生にいろいろ教えてもらったんだよな、俺。梨子先生優しいから何も言われなかったけど、結構イライラされたんじゃないだろうか。


 実習生は勉強のために全クラスを回ることになっている。今日はひよこ2組に、さっきの将也先生が入ることになった。なぜ1組を差し置いて2組からなのかというと、まあそれは補助に清香先生がいるから、初めにきっちり締めておこうということなんじゃないかと勝手に思っている。相変わらず怖いしな、清香先生。

 今日は朝一番に園庭を使うのが年中と年長クラスだったため、俺たちひよこ組はその後に入れ替わりで園庭へ出ることになった。
 新人の将也先生は子どもたちに引っ張られながら園庭へ連れて行かれている。ちょっと暗いんだよなあ。外で元気に子どもたちと遊んでれば、また違うんだろうけど。
 まだひよこ1組は園庭に出ていないようだ。清香先生は門の傍で送りに来た園児の母親と何やら話し込んでいる。女の話は長い。

「ゆーすけせんせー」
「ん? どした?」
「ゆういち、おしっこでちゃった」
「え!」
 確かに半ズボンが濡れていた。ゆういちくんはもじもじしながら俯いて言った。
「……ごめなさい」
「いいよ。冷たいんじゃない? すぐ取り換えよう」
「うん。怒ってない?」
「怒らないって。裕介先生も、よくもらしたから大丈夫だよ」
 いやこれはマジで。寒いからな〜、気を付けてたってこういうこともある。どうしても間に合わなかったりするんだよな。
「よし、じゃあ教室行こう」
「あの、裕介先生」
「うおっ」
 振り向くと目の前に将也先生がいた。ち、近いな、君は!
「あの……」
「ちょっとごめん、子どもたち見ててもらえる? ズボン替えてくるから」
「あ、はい」
 遠いとはいえ門に清香先生もいるから大丈夫だろ。子どもたちも最近は落ち着いてるし、無茶もしないし。


「ちょっと何やってんのお!?」
 なんだなんだなんだ!? 清香先生の声が園庭にこだました。着替えを終えたゆういちくんの後を追って俺もすぐに園庭へ出た。
 凄まじい速さで園庭を突っ切る清香先生の辿り着いた先はブランコ。急いであとを追って俺もブランコへ到着した。
 どうやら子どもたちがうつ伏せになり、お腹でブランコに乗って、それを将也先生が揺らしてあげていたらしい。
「えーと、将也先生だっけ? その乗せ方は危ないから禁止! だいたい、見ればわかるでしょう、すぐに」
「そうなんですか。子どもたちがいいって言うので、いいのかと」
「いいなんて言った事ないわよ!」
 清香先生が、じろりと子どもたちを睨んだ。これはあとでお説教だな。
「裕介先生に聞こうと思ったんですけど、忙しそうだったので」
 はあああ!? 俺のせいかよ。まず謝らないで先に言い訳してるし、清香先生のイライラがこっちへ飛んで来そうだ。
「裕介先生どこ行ってたの? 私に一声かけなさいよ。それに先にやっちゃけないことを教えてあげなさいよね、もう先輩なんだから。いい?」
「はい、すみません」
 な? 最近俺のカン外れないんだよな〜。……って、何で俺が締められてんだよ、ふざけんな。やっちゃいけないことって、こんなん常識だろ?

 その場を去っていく清香先生の背中を、残された男二人で見送る。何だか情けない。
「あのさ、わからなかったら聞いてよ何でも。忙しくても教えるから」
「……すみません」
 多分、年少とはいえ子どもになめられるんだよな、実習生というだけで。子どもたちだって、あの乗り方が禁止だったのは知ってるわけだし。それにしてもほんと、子どもってよく見てるんだよな〜。
「俺もここ抜けたの悪かったけど、勝手に判断すると大変なことになるしさ。わかってると思うけど幼稚園とか保育園って先生たち皆体育会系じゃん? 女社会だけど相当厳しいし、自分からどんどん聞いて動いて判断しないと」
「……」
「わかった?」
「……はい」
 返事が小せえよおお! 男だろ、お前ええええ! ってとこでまたデジャヴした。これ俺が最初に美利香先生に言われたことばっかりじゃんか。

 先のことを考えると気が重い。これで四月から俺たちと一緒に仕事するんだよな。大丈夫かよ、ほんとに。





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