先生やって何がわるい!

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(42)贈り物 (1)




 え、ちょ、何これ、まさかのフラグ? 
 まさかまさかまさか。だって、24日ってクリスマスイブですよね? 1月とか2月とか3月の24日のことじゃないですよねえええ!? クリスマスイブ、俺に暇かどうか聞いてくるってことは……。

 児童書を元の位置へ戻し、慌てて書店から出た。ニヤけた顔を両手で叩き、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸する。焦るなよ? 普通に返信するんだ。普通に。
『お疲れ様です。暇ですよー。どうしたんですか?』
 なかなか返信が来ない。もしかして今さら恥ずかしがってんのかな。いや、ここは俺が男らしく先にどっか誘ってだな……。とか考えていると返信が来た。
『ちょうど冬休み始まるし、暇な先生たちで飲み会しない? って美利香先生が言ってるの。私は空いてるんだけど、裕介先生はどうかなって思って。彼女がいたら、もちろんそっちを優先してあげてね』
 ああ、文章が長かったのね。それで返信遅かったのね。別に俺が特別とかそういうんじゃないのね。
『まだ彼女はいないんで(笑)、24日大丈夫です』
 全然笑ってねーよ! おかしくもなんともねーよ! (笑)じゃなくて(悲)だよ! 一人でこんな短時間にあれこれ考えちゃって恥ずかしいじゃねーか……。あーあ。


 梨子先生へ返信をした後、ATMで金を下ろし、勢いで電車へ乗って大きなショッピングモールのある駅で降りた。
 もうすぐクリスマスだからか、平日の8時近くになるというのに、ショッピングモールにはたくさんの人が行き来していた。何となく目についたアクセサリーのショップへ入ってみる。男一人だと入りづらいなー。店員がこっちを見た。来んなよ、他にもいっぱい客いるんだから。
「いらっしゃいませ〜! プレゼントですか〜?」
 1分も経たない内に来たよ。まだ全然見てないんだけど。
「あ、いえ、えーとはい」
 どっちなんだっつーの。
 クリスマスイブに皆が一緒とはいえ、とりあえず梨子先生と会えることになったんだから、何かあげたいなーとか思ってここまで来たわけだ。
 梨子先生が髪を耳に掛ける時、チラッと小さいピアスが見えるんだよな。全然派手じゃない、着けてんだかどうだかわかんないくらいの。
「今年だとこういうボリューミーなのとか、色味はゴールドっぽくて、マットな感じのが売れてますよぉ〜」
「はぁ」
 何言ってるかわかんねーよ。
「彼氏さんも一緒にお揃いでリングとかどうですか? 彼女さんも喜びますよ〜」
「いや、ちょっと考えてから、また来ます。すいません」
 よく考えたら自分の彼女でもないのに、アクセサリー類あげるのもおかしいよな。キモがられるかな、やっぱ。大体、なんて言って渡せばいいんだ。
 今年一年お世話になりました、とか。いや、まだ一年経ってないしな。やっぱ、クリスマスだし気軽にプレゼントってことでさ、この前の園長のノリで、梨子先生めりいいいくりすまあああすう!! ……とかはないわー、ないない。これはない。

 エスカレーターへ乗り、別の階を歩き回った。アクセサリーでないとしたら何がいいかな。園で使ってるものがいいか。
 ジャージとかTシャツとかどうだろう。Tシャツは、サイズがわからないな。梨子先生の場合、胸が入るかどうか……。つか、女物のジャージ見てるのって変態っぽいな。あーダメだ、やめやめ!
 梨子先生が好きなものって何だろう。こうして考えてみると梨子先生のこと何にも知らないな、俺。
 楽譜をあげるのはピアノが苦手なんだから嫌味っぽいだろうし、本は好みがあるし……。CDは持ってる可能性高いし、それよりも俺の好みと全く違いそうだよな。園で使うマグカップとかタオルとか色鉛筆とか? いや、どうせならもっといいものあげたい。
「……」
 いいものって何だよ。好感度上げたいっていう下心がないかと言えば嘘になる。まあでも、冬のボーナス出たんだし、これくらいはいいってことにしとこう。そうだ、うじうじ言ってないでそれくらいいいじゃん。もうそれでいっとけ。決まりだな裕介? これでいいんだな? いいと思う。声が小さい! 気持ち全然伝わってこない! これでいい! はい決まった! ピアスに決まった! ……最近病んでるな俺。

「ありがとうございましたぁ〜。今度はぜひ彼女さんといらして下さいね」
「どうも」
 結局さっきの店へ戻って買ってしまった。シンプルで飾りも小さいやつ。店員のお姉さん、結構いい人だったな。ラッピングも丁寧にしてくれたし、メッセージを入れるカードまでくれた。


 喜んでくれるかな。
 ショッピングモールから出たところにある大きなツリーの横でマフラーを巻き直し、暗い夜の星を見上げ、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。





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