片恋〜栞編〜

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13 白い包帯




「……痛く、ない?」
「うん」
 吉田くんがそう言ってくれたけど、恥ずかしくて目が合わせられなかった。

 余った包帯とハサミを彼が棚に片付けてくれる。恥ずかしがってる場合じゃないよね。
「ありがとう」
 顔を上げてお礼を言った。
「いや、お返し。俺も消毒してもらったし」
「上手なんだね」
「そんなことないよ」
 吉田くんが、照れくさそうに笑った。
 ほんとに上手。今もきつ過ぎず、緩くもなくてちょうどいい。痛みも感じないし。何かスポーツとかしてたのかもしれない。
「吉田くんって、何でもできるね」
「え? そ、そう?」
「そうだよ」
 私が笑うと吉田くんも笑った。なんかいいな、こういうの。さっきまでの緊張が少しだけ和らいだ。

「りょうお〜く〜ん」
 その声に振り返ると、ドアの所に高野くんがいた。
「……な、何だよ!」
「何だよはねーだろ、心配してきてやったんだからよ。授業終わったしな。でも、お邪魔だったかな? ん?」
 そう言って、高野君は保健室に入ってきて私に顔を向けた。
「鈴鹿さん大丈夫?」
「うん平気。歩けるし、そんなに痛くないんだ」
「いやいや、捻ったりすると後からくるもんなんだよ。今日は大事にしないと駄目だよ。なあ涼?」
「え、ああ、まあそうだけど」
「もう今日は授業終わりだろ。俺チャリだからさ、貸してやるよ。涼、鈴鹿さん駅まで後ろに乗っけてやれよ」
「え……」

 え、何? 何の話? 私が自転車の後ろに乗るの? 吉田くんが送る? 駄目! 絶対。今は駄目だよ。
「え、大丈夫だよ。私歩けるし」
「駄目だよ、栞」
 愛美と絵梨も、いつの間にか保健室に来てくれていた。
「無理しちゃ駄目だよ。はい荷物」
「ありがと、でも」
「そうそう、駅まで結構距離あるんだからさ。涼に送ってもらった方がいいって。彼女に怒られるから、俺が送ってあげるのは無理だけど、涼ならいいよな?」
「え、うん」
 吉田くんは頷いたけど、でも私……。
「い、いいよほんとに、吉田くんだって怪我してるんだし」
「全っ然大丈夫!!」
 彼はいきなり大きな声を出した。そう言えばこんな事、前にもあったような……。その時私の後ろで愛美と絵梨がこそっと言った。
「吉田くんだよね? あれ」
「なんか、違う人みたい」
 高野くんが何故か嬉しそうに私の顔を見る。
「ね、大丈夫だってさ。じゃ、そういうことで。涼着替えるんだろ? 教室行こうぜ」
 どうしよう。いつの間にか決定してるよ。困って俯いているとドアが開く音がした。
「さっき悪かったよ、どう?」
 この声。顔を上げると、相沢くんが保健室に来て吉田くんと話してた。あ、そうか相沢くんと吉田くんがぶつかって、それで吉田くん怪我したんだ。
「鈴鹿さん……足?」
「うん」
 相沢くんの視線が私に向けられている。あ、なんかやだ。見られたくない。
「大丈夫?」
「うん。吉田くんに……送ってもらうから」
 思わず俯いた視界に入ってきたのは、包帯に巻かれた足首。

「栞?」
 愛美が後ろから声を掛けてくる。
「どうしたの? まだ痛い?」
「ううん、大丈夫。ありがと。取り敢えず今日は、送ってもらうね」
「……吉田くんに?」
 二人が何だか意味深な笑い方をした。
「そう、だよ?」
 二人はうんうんと頷いて私の両肩に一人ずつ手を置いて、私に顔を近づけて小さい声で言った。
「絶対、そうした方がいいよ」
「明日必ず報告すること」
「何を?」
「何って、全部だよ、全部」
「ねー?」
 何、全部って。二人とも何か期待するように笑ってるけど、報告するようなことなんて何も起きないよ。

 皆がいなくなって、保健室がまた、がらんとした。ベッドに行ってカーテンを閉めて着替える。どうしよう……って頭の中、さっきからそればっかり。

 着替え終わって、少し硬く感じるベッドに腰を下ろして右の足首に視線を落とした。真っ白な包帯にそっと触れる。吉田くんが巻いてくれた包帯。
 消したい筈の気持ちがまたふと現れて、急に不安な気持ちで一杯になる。一緒に帰れること、素直に喜べたらいいのに。

 吉田くんを待ちながら、とっくに着替え終わったのに、いつまでもカーテンを開けられずに俯いている私がいた。




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