「あの、これ……ありがとう」
一緒にパンを食べた時の様に、屋上で二人で並んで座っていた。
俺が、さっきもらったお菓子の包みを手に乗せてお礼を言うと、彼女は嬉しそうに俺に向き直った。
「お誕生日おめでとう。このお菓子、プレゼントだったんだ。どうしても今日渡したくて、ずっと持ち歩いてたの」
「え……」
「前に図書室で聞かれて、すごく焦ったんだけど、ばれてなかったみたいで良かった」
彼女が俺に微笑んだ。
え、あ、あれ相沢じゃなくて、俺にだったのか! 嬉しすぎる。でも……、何で俺の誕生日知ってるんだろ。
「高野くんが、教えてくれたの。吉田く、……涼、の誕生日がいつかって」
栞ちゃんが照れるから、俺まで一緒になって目を逸らしてしまった。でも聞きたい、高野の奴……。
「それ、いつ頃?」
「え、と……図書室で聞かれる、何日か前だったかな? 本当はパンのお礼だったの。でもそれは言えないから、誕生日がいいかなって思って高野くんに聞いたんだ。そしたら……」
「?」
「誕生日だけじゃなくてね、涼のことたくさん教えてくれたの。涼はああ見えてすごく真面目だから、とか、鈴鹿さんと仲良くなりたがってるから、とか」
彼女は恥ずかしそうに下を向いた。
「だから、誕生日も何かあげたら絶対喜ぶよ、って言ってくれたの。それで……」
あ、あいつ……いい奴じゃんか。って事は、知ってて彼女の隣の席にしたのか。だから俺の事、煽ったんだなあいつ。
高野、原、俺後でお前らのとこ行くからな! 栞ちゃん連れて。あの時ありがとな、ってこれで言える。
その後、目の前の、栞……やっぱり俺も、ちょっと照れるなこの呼び方。
栞、から、いろんなことを聞いた。
彼女が夏休みに髪を切った理由。
自転車の後ろで涙声だったのも、俺の勘違いじゃなかった。
パン屋に一緒に行った時、俺の事を見つめていた時のこと。
全部俺に関係していた事だったなんて、信じられないよ。
そして屋上で俺が告白されてた時、その時に……俺の事が好きだ、って自覚したんだって、さ……。
……嬉しすぎるだろ、それ。
そして俺も話した。
告白現場を見てしまってから、ずっと栞が気になっていたこと。初めて本当に女の子を好きになったこと。栞を好きになってからは、誰とも付き合わなかったこと。自分から女の子にメールしたり、誘ったり、話しかけたりするのも全部栞が初めてだったこと。ずっと片思いで、絶対に振られるんだって思い込んでたこと。たくさん、たくさん話した。
二人で、皆からもらった弁当を食べた。けど胸が一杯であんまり進まない。皆ごめん。
そして今またこうして、二人で寝っ転がって青い空を眺めている。
あの時とちょっと違うのは、俺の左手に大好きな彼女の右手が繋がれていることだ。
ぎゅっと彼女の手を握ると、答えるように握り返してくれる。
胸いっぱいに空気を吸い込む。叫び出したい気分だ。
いつもつっかえてて苦しかった胸が、今日は別の何かで一杯になっていく。
苦しいんじゃない。嬉しいんだ。
胸が痛くなるのも、少し違う痛みに変わっていた。
彼女を想うと感じる心地いい痛みだ。
抜けるような秋の青い空に、飛行機雲がやってきた。真っ白い雲に向かって、繋いだ手を上に上げ、お互いの顔を見つめて笑った。
これからこうして一緒なんだ。ずっと一緒に、眺めていられるんだ。
それは、真っ直ぐ真っ直ぐどこまでも伸びていき、俺たち二人の目の前を眩しく通り過ぎていった。
〜 完 〜
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