片恋

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11 初恋




 鈴鹿栞、彼女の事を好きだと気がついてから、俺の生活は一変してしまった。

 もう女の子達とべたべたすることも無くなり、メールすらほとんどしていない。昼休みも男だけでゲームしたりバスケしたりフットサルやったり……気楽で楽しかったし、気も紛れた。相変わらず女の子達は声を掛けてくるけれど、もう彼女以外の子とはあまり関わりたくなくなってしまった。

 だからと言って彼女に話しかけるわけでもなく、何も出来ない自分がいた。彼女の姿を見ると胸が苦しくなって、廊下で出くわした時なんか、もう心臓が飛び出しそうなくらいだった。時間が経てば経つほど、この症状はひどくなっている気がする。
 授業も真面目に聞いて、なるべく彼女の方を見ないように心がけた。もし、もしもまた彼女が相沢を見つめる姿を見てしまったらと思うと、想像しただけで辛くて堪らなかった。
 二人が関わることはほとんどないけれど、委員会が一緒なのか、相沢が事務的な話を彼女にしているのを何度か見た。相変わらず相沢は愛想もなく、にこりとするわけでもない。だけど相沢と話をしている彼女の顔を見ていられなくて、情けないけど教室から逃げるように出て行ったこともあった。


 昼休み、一人でまたあの裏庭に行く。
 ここなら誰も来ない。今日は暑いしな。他に来る奴もいないだろ。樹は大きいから木陰になってて、まあまあ涼しい。
 何だか弁当もあんまり進まず、少し残してしまった。いつも喉に何かがつっかえてるみたいにずっと苦しい。

 ケータイを取り出して、昨夜ダウンロードしておいた曲を探す。この前テレビで流れて涙が出た曲、ネットで調べたらCMのはカバー曲だった。で、そっちじゃなくて原曲の方を入れてみた。随分古い歌で俺は生まれてもいない。タイトルは……思いっきり俺の事だよな、これ。

 ごろっと横になり、イヤホンを耳に突っ込む。
 何つうか、古い出だしのイントロだな。当たり前か。

「……」

 いい歌だ。古臭いけど。けど、今の俺には響いてしょうがない。

「……」

 歌を聞いてこんなに涙が出たのは初めてだった。
 CMの女の子も、泣いてたな。俺も後から後から涙がもう止まらなかった。あー情けない。
 昔も今も、人ってこういう気持ちは変わらないんだろうか。
 今までこういうの馬鹿にしてた。恋愛で人生変わるとか、ほんと馬鹿じゃないかって思ってたんだよ。ドラマ見ても、映画見ても、そういうの全然理解できなくて感動も何もなかった。けど、わかってなかったのは俺の方だったんだ。

 ……どうしたらいいんだ。どうしたいんだ俺は。
 彼女は相沢を好きなんだ。
 だから、言えない。好きだなんて言えないんだよ。

 目をごしごしこすって涙を拭き上を見ると、木漏れ日がちらちらと眩しく光った。目が痛い。ただ痛いだけじゃない。もう胸だけじゃなくて全身が痛い、気がする。やっぱ病気だよ。
 薬も効かない、治療法もない、ほんとやっかいで辛い病気だよな、これ。皆どうしてるんだろう。俺だけじゃないよな? こんなの……。
 そうだ。俺が振った女の子達だって泣いてた。美緒も。そんな事今まで考えた事もなかったよ。俺、本当に最低だったんだな。

 彼女は? 彼女もこんな思いしてたんだろうか。あいつの事思って……そうだ、ここで泣いてたじゃないか。ここで、こうして。俺の後ろで、恋わずらいしてたじゃんか。
 また涙が出てきた。女々しいな俺。
 あいつの事思って泣いてる彼女の事思い出したら、どうしようもなく辛くなった。きっと今の俺みたいに、彼女も辛かったんだろうな。あの時もっと、何かしてあげられたかもしれないのに。

「……いい歌だ、これ」

 俺はいつまでもこの古臭くて耳に残って、胸に突き刺さって離れない切ない歌を、何度も何度も繰り返し聞いていた。




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