先生やって何がわるい!

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(49) なわとび大会




 俺はこの約一か月、一体何をしていたんだろう。梨子先生との進展が一切ないじゃないか……!
 バレンタインにチョコもらったくらいかなって、梨子先生だけじゃなくて清香先生と浅子先生、ひよこ組の先生たち皆からもらった義理だし。園長やバスの運転手の光井さんだってもらってるから俺だけ特別ってわけじゃないし。ていうかそろそろこの義理チョコもやめません? なんて美利香先生笑顔で言ってたし。
 事務仕事に新人先生たちへの仕事の引き継ぎ、子どもたちと縄を跳びまくり、先生たちとも共同で大縄跳びするから、その練習。なんてやってる間に、なわとび大会当日になってしまった。

 朝から保護者が園庭の周りに集まっている。平日のイベントだからお母さん達がほとんどだ。
「ちょっと裕介先生」
「はい、何ですか?」
 美利香先生に呼び止められる。
「いい? 先生たちの大縄跳び、絶対引っかかんないでよ! 子どもたちも真剣に応援してくるんだから」
 縄を回すのは美利香先生と清香先生だ。そんなもん、練習中から恐ろしくて引っかかれなかったっての。
「はい、頑張ります」
 彼女の後ろにいた将也先生が腕を掴まれた。ひっ、なんて情けない声出してるよ。
「将也先生もよく見ておきなさいよ? 来年はあんたも参加するんだからね」
「は、はいい!」
 可哀想に……。年長に実習入ってしごかれてんのかね。四月からはもっとだぞ。もっともっと怖いんだぞー。


 なわとび大会が始まった。お母さん達は皆デジカメやビデオを構えて準備万端の様子だ。
 まずは年少から。園庭中に散らばって、自分の縄を持つ。もちろんほとんどの子が飛べません。しかし可愛い。ものすごく可愛い。なわをぶんと回して自分の顔に当たったり、跳べても一回だけだったり、その内遊び始めたり。その度に保護者から、ほのぼのとした笑いが起きた。
 まあ運動会と一緒で、年少はぶっちゃけ可愛ければ許されるんで。一生懸命やってればそれでよし! ゆみちゃんも楽しく縄を回してて良かった良かった。

 年中になると跳べる子がぐっと増える。皆綺麗に縄を回して跳んでいる。この成長っぷりはすごいんじゃないか。
 そして年長。これくらいになると、秒数も増えて分単位だ。最終的に残った子は4分38秒も跳び続けた。先生たちで5分以上はストップをかけることにしているから、すごいもんだ。

「次は先生たちによる大縄跳びです! クラスのみんな、先生を応援しようね」
 マイクを持つ主任が、子どもたちに向かって言った。子どもたちは園庭の端に体育座りをして、先生たちを応援している。
 運動会を思い出すぜ。先生頑張るから見ててくれよー!
 真ん中には俺と佐々木と一也先生の男子が跳ぶ。背の高さからこうなった。端に行くほど背の低い先生だ。体力はそっちの方が使うから大変だと思う。男三人がなるべくくっつかないと女の先生たちが跳ぶスペースが狭くなる。仕方なく佐々木のすぐ傍へ寄りながらジャンプし続けた。こいつ俺すげーアピールばっかしてるけど、結局引っかかりそうで怖いんだよな。リレーの時も無様に転んでたし。絶対余計なことすんなよ!?

「じゅー、じゅーいち、じゅーに」
 主任と一緒に子どもたちが数えていく。平常心、平常心。リズムを崩しちゃ駄目だ。集中しすぎてもリラックスしすぎても駄目。リズム、リズム。
 悟りの境地へ至りそうになったその時、縄が誰かに引っかかり、子どもとお母さん達から、わーっと言う残念そうな声が上がった。
 でも二百回ってすごいんじゃね? 練習中は百五十回くらいだったから新記録だ! これで美利香先生と清香先生に怒られずに済むわ。子どもたちも嬉しそうだったし、めでたしめでたしだな。


 子どもたちが帰り、教室の掃除を終えて職員室へと戻った。溜まっている事務仕事を片付けていく。あっという間に終礼の時間が来てしまった。
「終礼を始めます」
 園長が何やら紙を手にしている。こういう時は長いんだよ。また新聞記事で見つけたほのぼの話、とか読もうとしてるんだろうか。全然盛り上がんないやつ。園のホームページあるんだからブログでもやりゃいいのに。園長だよりとか名前つけてさ。まだこっちもやることいっぱいあんだから、早く終わらして欲しい。
 全員が立ち上がったところで園長が咳払いをした。
「それでは来年度の担任を発表する」
「え!!」
 先生たちが驚いて声を上げた。誰も今日発表があることを予想していなかったらしい。もちろん俺だってそうだ。突然のことに心臓が飛び出しそうになった。職員室中が緊張に包まれる。
 そうか、もうそんな時期だったんだ。今日は実習生二人もいる。全員が揃ったところで発表ということか。それにしてもちょっとくらい前もって教えてくれてもいいだろ、親父のやつ。

 俺の横に立つ梨子先生は、厳しい顔付きで園長を見ていた。





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