同じ朝が来る 拍手お礼 木下視点

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春休み





 花が一斉に咲き始めた、春休み。
 休みに入ってから、彼といろんな場所へでかけた。昨日はお弁当を持ってお花見。今日は夏休みに皆で訪れた水族館に来ている。

 あの時と同じ様に、今日は休みの子どもたちと学生で人がいっぱい。振り向いた倉田くんが、心配そうに私を振り向く。
「大丈夫?」
「うん。混んでるね今日」
 夏休みのことを思い出すと、胸がまだちくりと痛む。倉田くんに伝えたくても伝えられなかった思いを抱えて、どうしようもなく苦しかった事。あの時はこんな風に彼の隣にいられることになるなんて、本当に思わなかった。

 大きくて綺麗な青い水槽をいくつも眺めていくと、そこは以前二人で立ち止まった場所。
「倉田くん」
「ん?」
「あの時……なんて言おうとしたの? ここで」
 目の前で魚が泳いでいるガラスに手をあてると、私の隣に彼も手を置いた。
「……木下さんは?」
「え?」
「あの時、何か言おうとしてた」
「私は……言いたかったけど、ここが苦しくて何も言えなくなったの」
 喉元を押さえて見上げると、彼は悲しげな目をして言った。

「俺もだよ。無理やり、飲み込んだ」
 またほんの少し小指が触れた。私の手を彼が掴んでそこから歩き出す。
「本当はこうやって、逃げ出したかったんだ俺」
「……」
「木下さんのこと連れて、後の事は全部忘れて」
「ほんと?」
 震えた私の声を聞き、彼が繋いだ手に力を込めた。
「……うん。好きだって言って、余計なこと考えないでこのまま二人でって思った。あの時は、どうしようもなかったけど」
「私も好きって、」
 倉田くんの言葉が嬉しいのか切ないのか、もうわからないくらい何かが込み上げて泣きそうになる。
「うん」
「私も、」
 言おうとしたの。倉田くんに。そう言いたいのに、声が詰まって上手く言えない。
「……わかってる。もう気付かない振りしたりしない。自分にも。大丈夫だから」
 倉田くんは振り向いて、私に優しく微笑んだ。

「後で観覧車乗ろう。きっと綺麗だよ」
「……うん。乗りたい」


 綺麗な青い水槽の前で、繋いだ手を離さずにそのまま彼の腕に寄りかかった。







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