お互いの場所に触れていることに羞恥を感じながらも、その行為に夢中になっていた。

 直之様の手が、ふいに私の片方の太腿を掴み持ち上げ、そこに隙間を作る。
「蓉子さん……大好きですよ」
 熱く囁いた直之様は隙間の出来た太腿の間に、私の手から離れたその硬いものを、後ろから差し入れた。持ち上げていた腿をぴったり閉じさせると、私の濡れたところに彼の熱いものを密着させた。
「え、あ、あ……いや」
 両手で私の腰を掴んだ直之様は、濡れた狭間に、ぐいぐいとそれを擦り付けている。指で弄られていた時とは違う気持ち良さに目の前がちかちかとして、痺れるような果てしのない快楽に支配された。
 擦れ合う水音と衣擦れの音がお部屋に響く。
「あ、ああ、恥ずかしい、直之様……このような」
「恥ずかしいことなど、何もありません。もっと乱れればいい」
 太腿の間を抜き差ししながら、直之様は何度も腰を私に押し付け、息を荒げた。
「……一緒に、いきましょう」
 後ろから伸びた彼の手に、一番敏感なところを摘ままれた。 
「あ……! あ、ああ……っ!!」
 お腹の奥から何かが駆け上り、濡れた場所にもっともっと押し付けて欲しくなり、太腿を締めて彼のものをぎゅっと締め付けた。
「ああ、蓉子さん、蓉子さん……!」
 びくびくと奥が痙攣して恍惚の波に全身を呑みこまれる。と同時に彼が激しく腰を動かし、低いお声で、ううと呻いた。

 ぼんやりとして視線が定まらない。青白い月明かりがゆらゆらと揺れて見えた。
 私は今度こそ本当に粗相をしてしまったのだろうか。足の間だけではなく、太腿まで濡れているのだもの。
「直之様」
 しばらく私を後ろから抱き締めていた彼の名を呼んだ。
「何ですか……」
 直之様の吐息が首筋に触れる。
「私、ごめんなさい。とうとう粗相をして、しまった、みたい。たくさん腿が濡れているんです」
「違いますよ。それは俺のですから」
「……え?」
 今拭きます、と言って起き上がった直之様を振り返らずに、太腿に付いたものを指で拭う。粗相にしてはべたべたとしていた。月明かりの中、直之様がベッドの横の小さな灯りを付けた。
 自分の姿に恥ずかしくなって縮こまりながら指を見ると、白くとろりとしたものが付いていた。
「そう、まじまじと見ないで下さい」
 ベッドに戻った直之様の声はどこか恥ずかしそうで、隠すようにハンケチで私の手に付いたそれを拭った。
「直之様の、とは?」
 太腿に付いた白い液体を丁寧に拭ってくださる直之様に質問する。
「あなたがお感じになったように、最後まで良くなると俺の方は、こうなります。これをあなたの中に出すと、俺の子どもが宿るんですよ」
「おややが……?」
「本当に何もご存知ないのですね。清らかなあなたを俺が少しずつ汚している様で、何とも躊躇われますが……」
「汚されているなどとは思いません」
「それなら良いのですが」
 直之様のおややが、私のお腹の中に。とても不思議な気持ちになった。
「それが最後まで、ということなのでしょうか」
「ええ、子どもを成す、という意味では」
「他にまだ何かあるのですか」
「俺も詳しくは知りませんよ。ですが、もっと互いの体を知り尽くして具合が良くなる方法もあるようです」
 私の隣に横になった直之様は、くしゃくしゃになったシーツを伸ばして掛け、私を腕に抱き寄せた。
「では、今のはまだ……最後まで、ということではなかったのですね」
 素肌を合わせて温かさを分けあいながら彼に問いかけた。
「そういうことになりますね」
「……してはくださらないの?」
 意外な言葉だったのか、私を見つめていた直之様が目を丸くした。
「蓉子さん」
「最後まで教えても宜しいかと、直之様はおっしゃいました。ですから直之様の、よしなにと……」
 静かに深い息を吐き出した彼の振動が伝わった。
 まだ小さな灯りは点いたまま。壁に私たちの淡い影が映っている。
「俺は」
 こちらを見つめる彼の瞳に私がいた。
「俺は、あなたの中に入りたいが……本当に宜しいのですね?」
 強い眼差しを受けて小さく頷く。
「中に出さないようには気を付けるが、もしも子どもを授かったら、あなたの体が一番ですので……学校は」
「わかっております」
 私を大切に思って下さる、そのお気持ちが心に沁みた。
「直之様のおややなら私、とても嬉しいの」
「蓉子さん……!」
 唇を合わせながら私に圧し掛かかった直之様は、差し入れた舌を私の舌に激しく絡ませた。食べられてしまうのではと心配になるほどの貪る様な接吻は、その後唇を離れ、私のお腹辺りまで移動した。

 私の両足を大きく開かせた直之様は、濡れぼそった場所にお顔を近づけた。灯りはまだ点いている。
「綺麗ですよ、蓉子さん」
「いや、見ないで……!」
 直之様の息がかかると、そこにきゅっと力が入った。刹那、生温かいものに包まれた感覚に驚き、頭を上げて確認する。目に入った光景に眩暈がした。
 直之様が淫らなお水にまみれたそこを、音を立てて舐めている。
「いや! そんなところ、汚な、あ…ああっ」
「汚いことなど微塵もない。もっと味わわせて下さい」
「だめだめ、やめてぇ……!」
 自分のものとは思えないような甘い声を上げながら、直之様の頭に触れてどうにか止めてもらおうと試みる。それを拒否するように首を横へ振った直之様は、益々激しくお水を啜り、舐め回した。小さく敏感な中心部分を舌で転がされ、唇で吸い付かれ、ああ、ああと、悶え続けるしか出来ない。
 涙ぐみながら彼の名を呼ぶと、そこから唇を離した直之様が私の顔を覗き込み、真摯なお声でおっしゃった。
「蓉子さん、本当に……いいんですね?」
「……はい」
「愛しています。この先もずっと」
「私も……愛しています、直之様」
 目を細めた直之様は私に深い口付けをした。甘く優しく、私を蕩けさせてしまう接吻に夢中になっていると、足の間に何かをあてがわれた。シーツの上に手を置いた直之様が、私の中に腰を沈めてゆく。
 ゆっくりゆっくりと、あの硬いものが内に挿入されていく。
「あ、あ……」
「痛かったら、言って下さい」
「少し、い、痛い……」
 訴えを聞いて動きを止めた直之様は再び私に接吻をした。彼の舌を感じると全身の力が抜けていくのがわかる。唇を離した直之様は首筋、鎖骨に唇を押し当て、胸の先端を優しく舐めた。快感に体がうねり、彼を咥えている場所から密が溢れ出す。
「ここが感じられるのか」
「は、い……ん、んうっ」
 お返事と同時に吸い付かれ、下腹がじんと疼いた。それを感じ取られたのか、止めていたものを押し進ませる。
「もう少し奥まで、入れますよ」
「あ、ああ……」
 内いっぱいに直之様のものを感じる。小刻みに息を吐き続けて息苦しさを凌いだ。直之様も苦しそうに顔を歪めている。
 はあと大きく息を吐いた彼が呟いた。
「全部、あなたの、中に」
 額と頬と唇と首筋に、幾度も口付けを落とした直之様は、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「蓉子さんの中が温かくて……もう、どうにかなりそうだ。すごくいい」
 直之様は熱い息を零しながら眉を歪め、私の唇を優しく舐めた。恍惚を湛えたその表情にたまらなくなり、動きに合わせて私も腰を浮かせてみる。
 直之様のものが浅く深く、私の中を迷子のように行き来する。いつの間にか鈍痛は消え去り、甘い律動に身を委ねていた。彼の体は焼けるような熱さで、その熱を受けた私も体温が上昇していく。
 目の眩むような愛の言葉を私に降らせながら、直之様は私の体を強く抱き締め、腰を揺さぶった。
 朦朧とした意識の中、一層動きの速まった直之様がくぐもったお声を上げ、同時にご自身を引き抜いて、私のお腹の上に温かいものを……浴びせた。
 熱い吐息を絡ませ合いながら、ぐったりとした体をベッドに預け、甘い接吻の名残を惜しむかのようにどちらからともなく唇を寄せた。


 カーテンの隙間から差し込んだ朝日と小鳥の鳴き声に目を覚ました。
 心地良い疲れが体を包んでいる。ふと横を見ると、目を瞑って眠り続ける直之様の寝顔があった。頬を合わせてみようかしら、それとも口付けをしてみようかしら、はしたないと思われるかしらなどと、彼の整ったお顔をまじまじと見つめて想像した。
 その肌の匂いに顔を埋めようとした時、遠くからドアを叩く音が聴こえた。
 驚いて顔を上げる。寝室のドアではなく居間の向こう、廊下からノックされた音だ。しばらくして再び同じ音がした。
「あの」
 可哀相だけれど仕方がない。眠っている直之様のお耳に近付いてお名前を呼ぶ。
「直之様」
「……」
 ゆっくりと瞼を上げた直之様が私の顔を見て微笑んだ。
「蓉子さん、おはよう」
「おはようございます、あの」
「ん?」
「どなたか、お部屋にいらしたようなのですが」
「あ、ああそうだ、忘れていた……!」
 慌てて飛び起きた直之様は、浴衣を拾い、体に纏いながら立ち上がった。
「部屋に朝食を頼んでいたんですよ。あなたは寝室にいてくださいね」

 シーツにくるまり、居間で給仕とやりとりしている直之様のお声に耳を澄ます。昨夜の彼の切ないお声を思い出し、一人頬を熱くした。
 とうとう最後まで教えていただいたのだ。
 心も体も愛されることはどういうことなのか、直之様は身を以て教えてくださった。愛の言葉と心と体を私に与えてくださった。
 ――お互い何ひとつ身に着けずに、全てを晒して。

 給仕が出て行った後、私も浴衣を着て居間に入った。銀色のポットに入った珈琲を直之様がカップに淹れて下さる。焼き立てのパンやハムなどが並んでいた。
 テーブルを挟んで椅子に座ったけれど、明るい場所で彼のお顔を見るのが恥ずかしくて、俯いてばかりいた。
「蓉子さん」
「……はい」
「体は大丈夫ですか。痛みは?」
「ええ。大丈夫です」
 顔を上げると、浴衣の前を寛げている直之様と目が合った。
「……俺は、痛いです」
「え?」
「あなたのお声を聴いただけで、胸が酷く痛む」
「直之様」
「あなたを抱いて、あなたのことがますます恋しく、愛おしくなりました。今この時も、あなたに触れたくてたまらない」
 熱っぽいお声に体が反応した。私も……直之様に触れていたい。
「もう我慢などなさらないで。私も、あなたと同じ気持ちでいるのですから」
 私の瞳はきっと濡れている。
 それはもう、諦めと悲しみと罪悪感のせいなどではない。ただひたすら、恋の喜びに濡れているだけ。なんと幸せなことだろう。
「では……今日は一日、あなたとここで過ごします。いいですね?」
「はい。よしなに」
 珍しく頬を染めた直之様に、微笑みながらお返事をした。
 珈琲の香りが私たちの間を満たしてゆく。初めてお逢いした時、あなたがお部屋に連れて来た時と同じ香りが。