「あの、これ……ありがとう」
屋上の柵の前に二人並んで座り、私があげたお菓子の包みを手に乗せて、彼はお礼を言ってくれた。
「お誕生日おめでとう。このお菓子、プレゼントだったんだ。どうしても今日渡したくて、ずっと持ち歩いてたの」
彼の嬉しそうな顔を見て、お祝いの言葉を渡す。
「え……」
「前に図書室で聞かれて、すごく焦ったんだけど、ばれてなかったみたいで良かった」
本当に、あの時はどうしようって思ったんだよね。吉田くんは驚いた顔で私を見つめている。
「高野くんが、教えてくれたの。吉田く、……涼、の誕生日がいつかって」
涼って呼ぶのまだちょっと、ううん、かなり照れる。
「それ、いつ頃?」
「え、と……図書室で聞かれる、何日か前だったかな? 本当はパンのお礼だったの。でもそれは言えないから、誕生日がいいかなって思って高野くんに聞いたんだ。そしたら……」
「?」
「誕生日だけじゃなくてね、涼のことたくさん教えてくれたの。涼はああ見えてすごく真面目だから、とか、鈴鹿さんと仲良くなりたがってるから、とか」
自分で言うのはちょっと恥ずかしい。
「だから、誕生日も何かあげたら絶対喜ぶよ、って言ってくれたの。それで……」
高野くんは本当に黙っていてくれたみたいで、涼は何も知らなかった。ありがとう高野くん。後でお礼のお菓子、渡しに行くね。愛美と絵梨の所にも行って、早く二人の顔を見て言いたい。ありがとうって。
その後、いろんな事を話した。
相沢くんに振られてから、いつも涼に元気をもらってたこと。
髪を切った理由。自転車の後ろで、彼を思って涙ぐんだこと。パン屋で会った時のこと、屋上で涼が告白されたその時、彼を好きだって、自覚したこと。全部全部、話した。
そして涼も話してくれた。
初めて本当に好きになった女の子が私だったこと。私のことを好きになってからは、誰とも付き合わなかったこと。自分から女の子にメールしたり、誘ったり、話しかけたりするのも全部私が初めてだったこと。
彼は、私が相沢くんのことを今でも好きで、自分は絶対に振られるって思い込んでいた。さっき裏庭に来たのも、私と相沢くんが付き合ってるのかどうか確かめる為だった。
彼が、私にずっと片思いしてたなんて、それだけはやっぱり今でも信じられない。
図書室で、メモ紙を使って会話した時も、絆創膏を貼ってあげた時も、いつも哀しそうな目で私を見ていたのは、そういう事だったんだって気付く度に、切なくて苦しくて胸が痛くなる。
三人からのお弁当に手を付けるけど、胸が一杯で、あんまり入らない。皆ごめんね。
そして今またこうして、二人で寝っころがり、両手と両足を広げて青い空を眺めている。
あの時と少しだけ違うのは、私の右手に大好きな彼の左手が繋がれていること。彼に優しくぎゅっと握られて、私もそれに答えるように握り返す。
彼を思う気持ちも、繋いだ手から伝えたい。いつもこうして傍にいたいって、大好きでしょうがないって思う私の気持ち、伝わってる?
秋晴れの抜けるような高い青い空に、右から飛行機雲がやってきた。真っ白い雲に向かって、繋いだ手を上に上げ、お互いの顔を見つめて笑った。嬉しくて湧き上がる幸せな気持ちに、いつまでも笑顔が消えない。
これからずっと一緒だね。こうしていつも一緒に眺めていられる。
それは、真っ直ぐ真っ直ぐどこまでも伸びていき、私達二人の目の前を眩しく通り過ぎていった。
〜 完 〜
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