片恋番外編 高野視点
思い込み
「高野!」
……今日、何回目だよ。
まだ昼休み前だってのに、十回以上呼び止められてんだけど、俺。こうなることは予想してたけどさ、まさかここまでとはね。
溜息を吐いて振り返ると、意外な女の子がそこに立っていた。
「……美咲、とうとうお前もか」
「は? 何が?」
「何がって。あーあ、お前だけは何となく違う気がしてたんだけどなー」
彼女の手にある、紙袋を見つめた。
「あ、ああこれ?」
「涼だったら教室にいるから直接渡せば。もうすでに大量にもらってるけど」
何となく不貞腐れて応えた。ちょっとだけイラつく。変な感じだ。
高校入って半年くらい過ぎた頃、席が近くなった涼と結構気が合う事がわかって、奴と一緒にいる機会が増えた。
同時に、こうして女の子に声をかけられることも増えた。勿論、俺のことでは無く涼に関することで。
手紙渡せだの、これあげろだの、まだ彼女と別れないのかとか……。俺は人がいいんだか何だか、そういう彼女達の相談とか頼まれたこととか、断りきれなかった。みんな一生懸命だしな。可愛いし。女の子好きだし。
で、今日みたいなバレンタインデーなんかは、特に声がかかる。俺じゃねーのかよ! という突っ込みは、三回に一回くらいに控えた。
目の前にいるのは、隣のクラスの美咲。この美咲の友達が涼のことを好きで、彼女から俺は最近相談を受けていた。で、結構仲良くなったしさ、こいつだけは違うって思ってたんだけど。
「何、怒ってんの?」
「別に怒ってないけどさ」
廊下の壁際に立つ俺に向かって、美咲が一歩前に出た。
「?」
「はい。いつもお疲れ様。これ高野に」
「へ?」
「何その顔。意外だった?」
「い、いやあ、悪いね。気使わせちゃって」
何だよ、義理だってわかってても、すげー嬉しいんだけど。
「じゃあねー」
美咲は俺を置いてさっさとその場を去っていった。え、何これだけ? これだけの為に俺のこと呼び止めたのか。
紙袋をちょっと開いて、中をそーっと見る。そんなに小さくもない箱は、ちゃんと包装紙にくるまれてリボンもかかっていた。ふ、ふーん。可愛いとこあるじゃん。周りをキョロキョロ見渡す。ドッキリじゃないよな? 俺のだよな? コレ。まあ、義理なんだからそこまで心配する必要ないか。
その日の帰り、チャリンコ置き場で後ろから名前を呼ばれた。
「高野」
振り向くと、美咲が鞄を持って立っている。
「何だよ、どした?」
「一緒に帰らない? 駅まで」
「ああ、いいよ」
何だろう。また涼のことで相談か? 美咲とはこうしてたまに、一緒に駅まで帰ることがあった。
チャリを引っ張って土手沿いを歩く。風が冷たい。隣を歩く美咲はマフラーを巻き直した。
「高野ってさ、女の子達からいい人だって評判いいよね」
「え、そう?」
「でも、たまには断ればいいのに。人が良すぎるよ」
「いいんだよ。好きでやってんだから。そんなこと言って、お前だって俺のとこ来てんじゃん」
「そうだけど……」
別にだからって、涼と一緒にいるのが嫌な訳じゃないし。女の子の知り合いも増えるしな。こうやって美咲と話が出来るのだって、涼がきっかけな訳で……損してるようにも思えない。
「ねえ、チョコいくつもらった?」
「えーと4つ」
「あたしの他に3つもらったんだ」
「まーね。みんな義理だけど」
「そうとは限らないんじゃない?」
そうとは限るんだよ。二人は涼のチョコと一緒に持ってきたし、もう一人は前にチャリを貸してあげた子で、他にもたくさんの義理チョコとか、友チョコ持って配ってたし。
「な? どう考えても義理じゃん。頑張って俺の頭の中で繰り広げても、恥ずかしいだけだから」
「まだひとつ残ってるでしょ」
「残ってるったって、お前のだろ」
「だから」
「何」
「あたしがあげたやつが、義理じゃないって言ったら?」
「え」
「びっくりする?」
美咲は俺の顔を覗きこんで来た。
「び、びっくりする」
「びっくりして……どうする?」
チャリを引っ張る足を止め、改めて美咲の顔を見る。初めて見たわけじゃないっていうのに、知らない子といるみたいにドキドキしてきた。何を緊張してるんだ俺は。
……美咲って結構、俺の好みかもしれない。
「い、いい方向で考えさせていただきます」
「あはは、なにそれ!」
美咲は笑った後、真面目な声で言った。
「ホワイトデーまで、返事待つね」
何故かもう彼女の顔が見れない。二人の間をいつもと違う雰囲気が漂って、思わずそれを壊したくなり言ってみた。
「後ろ、乗る?」
「いいの?」
「どうぞ」
何だ、何だよこれは! 美咲の気持ちだけじゃなくて、ものすごく嬉しく感じている自分にもびっくりしてる。
ペダルを目一杯漕いで自転車を加速させ、一気に前へ進むと、驚いた美咲が後ろから俺にしがみついてきた。
あー駅までとか言わないで、土手沿いをずーっとどこまでも走って行きたい!
多分一ヶ月も待ちきれなくて、返事しちゃうな俺。
しょうがない、涼にも報告しよう。一応あいつのお陰だからな。 たまには俺も、自慢してやるか。
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