カルボナーラとフレンチトースト
拍手お礼SS彰一視点
穏やかな海で君と
教会での挙式のあと、レストランでのガーデンパーティーも無事に済み、両親や親戚はそれぞれの宿泊先へと向かった。
「いい式だったね」
「うん。楽しくて、素敵だった」
二人が泊まる予定のホテルは、都会の海沿いにある。夜の散歩に出てベンチへ座り、夜景を見ていると、隣で彼女が嬉しそうに言った。初めて会った時から変わらない、その笑顔で。
「不思議だね、彰一さん」
「ん?」
「だって、明日から同じ場所に帰るんでしょ?」
「……」
「今までは、どっちかの部屋に泊まったら、当たり前だけど、どっちかは自分の部屋に帰らなきゃいけなかったじゃない?」
ベンチの背もたれに腕を置き、彼女の肩にそっと手を伸ばした。
「でも明日からはずっと同じところに帰るのって、なんかすごいね」
「……そうだね」
静かな波の音が、二人を包んでいった。
「これからよろしく、優菜」
「あ、はい。え、あの……よろしくお願いします」
明らかに動揺している彼女の肩を抱き、顔を覗きこんだ。
「びっくりした?」
「だって……急に言うから。彰一さん、普段は言わないのに」
恥ずかしそうに上目遣いでこっちを見る彼女に、意地悪をしたくなって、耳元で囁いてみる。
「普段は言わないって、じゃあ……いつ呼び捨てにするんだっけ?」
「え!」
落としそうになった彼女のバッグを、咄嗟に反対の手で掴む。
「あ、ありがと。彰一さん」
「教えて? いつ?」
「それは……あの」
「うん」
「……えーと」
「こういう時?」
彼女の髪に指をやり、頬に顔を寄せてキスをした。
「う、うん」
今度は返事をした唇を塞ぐ。一瞬動揺した彼女も、いつの間にか自分の気持ちに応えていた。
「……こういう時も?」
「そ、そう。かな?」
困ったような返答がおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「彰一さん、ひどい」
「ごめん、ごめん。優菜ちゃんが可愛いくてさ、すごく」
もう、と言いながら腕を叩いてくる彼女の手を取る。その指には、彼女をずっと守っていくと決めて半年前に贈ったものと、今日お互いに交換し誓い合った指輪が二つ、光っていた。
「じゃあ……部屋に戻ったら、たくさん呼び捨てにしてもいい?」
「……うん」
「俺が言ってる意味わかってる?」
疑いもせず素直に頷く彼女に、わざと確認してみる。
「わ、わかってる」
「じゃあ、優菜ちゃんにも後でたくさん呼んでもらうから」
「……彰一、って?」
「そう。もう一回言って?」
彼女の自分を呼ぶ小さな声が耳に届いて、胸の奥から愛しいという気持ちが溢れてくる。
滅多に言わない、愛してるなんて言葉を使ってみようかと、彼女をこの手に抱きながら思ってしまう。今それを口にしたら、どんな顔をするんだろう。
「……やっぱり」
「?」
「あとのお楽しみに取っておく」
「どうしたの? 彰一さん」
「ううん、何でも」
不思議そうに自分を見つめる彼女の、胸元まである綺麗な髪をゆっくりと撫でた。
そう、焦らなくてもいいんだ。始まったばかりの二人には、たくさんの時間が流れていく。
目の前の穏やかな海のように、これから、ずっと。
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