ななおさん

番外編 壮介視点 「水風船」 後編(浴衣でH企画参加作品)



 帰りは送迎バスで旅館に戻った。
 バスの中でも彼女の手を握り離さずにいた。僕が無言でいる意味、七緒さんわかってる? 一刻も早く君をこの手に抱きたいってこと、伝わってる?

 部屋に入って早々、七緒さんを壁に押し付け、立ったまま強引に唇を重ねた。浴衣の裾から手を入れ、裾避けと一緒に大きく捲りあげる。と、そこには目を疑うものがあった。
「え、七緒さん、これ……?」
 驚く僕に彼女が顔を赤らめた。
「さっき……着替える時に意地悪されたから、私も意地悪仕返したの。壮介さんが外すの大変かなって」
「ていうか……これって、褌だよね?」
 実物を初めて見た、女性用の褌。淡い水色地の隅にワンポイントの小さな蝶が付いている。申し訳程度の短い前たれで前が隠されていた。
「あのね、体にいいんだって。足の付け根を締め付けないから血行が良くなって、ぐっすり眠れて健康に……あ……っ!」
 裾を捲り上げたまま、彼女に後ろを向かせ、壁に両手を着かせた。へぇ……後ろはこうなってるんだ。ねじったものではなく、ぶかぶかのショーツのようだった。
「僕の健康には全然良くないんだけど。そんな格好されたら逆に喜んじゃうよ、ほら」
 すっかり興奮してしまったモノを下着から引っ張り出し、褌と彼女の臀部の間へ後ろから差し入れた。早く七緒さんの内に入りたいと騒ぐ衝動を何とか抑えながら、先走った露を白い肌に塗りつける。
「こんな布、簡単に外れるよ。ていうかさ、褌って本当はこうじゃない?」
 腰を引いてしゃがみ、前たれではなく、後ろを覆っている布を一掴みにして割れ目に食い込ませた。
「やっ……! そういうのじゃない、の、これは」
「ねじって食い込ませるんじゃないの? 僕から言わせれば七緒さんの履き方は邪道だね。ほら、この方が良く見える」
 ぐいぐいと食い込ませ、剥き出しになった白いお尻に唇を這わせると、彼女が泣きそうな声を出して腰を振った。
「ちがっ、そういうんじゃ、ないの、違うの」
「違わないんじゃない? 気持ちいいんでしょ、本当は。濡れて透けてきたよ?」
「み、見ないで」
 彼女の言葉を無視し、褌の布を横にずらして片方の太腿を持ち上げ、その内側、付け根ギリギリに舌を這わせた。
「あっ、こ、これじゃあ、意地悪、んっ、できな、い」
 零れ落ちる滴りの奥へ舌を割り入れ、音を立て啜ると、彼女が体をくねらせて息を荒げた。
「わ、私……あ……っ」
「どうしたの」
 ひくついた運動を始めた肉から溢れる雫を舐め取る。
「もう、あっ、あの……あ、んっんっ」
 顔を離して、右手の中指と薬指を後ろから蜜奥に押し挿れた。腹側に軽く指を折り、優しくそこを刺激する。
「ひ、うっ……うう……っ!」
 どっと奥から粘り気のある蜜が溢れ出し、彼女の体が震えた。軽く達したらしく、僕の指を咥えるそこが、小刻みに痙攣し続けてている。
「食事の前よりスムーズに呑み込んじゃったよ。僕の指、手首までびしょびしょになってる」
 抜いた指を彼女に見せ、後ろから唇を奪って舐め回した。イヤイヤと首を振った七緒さんがキスの途中で途切れ途切れに僕へ訴えた。
「い、意地悪しない、で」
 懇願する桃色の唇の端から透明な唾液が零れ、喉元まで垂れたのが目に入った。掬い取って彼女の口に指ごと入れる。
「意地悪してるのは七緒さんなんでしょ? 自分で言ったじゃない」
「ふ……ぁふ」
 柔らかな舌を挟み込んで撫でた。とろんとした瞳で僕を見つめていた彼女は指を抜いたと同時に俯いた。
「……壮介さん、お願い」
「お願いって、何を?」
 嬉しくて思わず声が上ずる。期待していた言葉を早く、聞きたい。
「……何、って」
「言わなきゃわからないな〜」
 彼女の帯に手を掛け、後ろの結び目をほどく。着物の時よりも簡単だった。ついでに伊達締めも取ってしまう。
「欲しい、の」
 僕だってつらいんだよ、我慢するのは。でもたまには七緒さんから欲しがってよ。
「うん。だから何が?」
「壮介さんの、欲しいの」
「僕の何が欲しいの?」
 耳朶を甘噛みした後、ちろちろと耳の中を舐める僕に七緒さんが大きく息を吐いた。
「も……嫌、い」
「嫌いなんてひどいな。僕は大好きなのに」
 顔だけ振り向かせて瞳を潤ませた彼女が、壁についていた手をおずおずと伸ばし、僕の硬くそそり立っているそこへ触れた。
「……挿れて……壮介さんの、これ……欲しいの」
 浴衣の上からそっと握る感触と羞恥を含んだ消え入るような声が……たまらなくいじらしかった。目的が達成されたとはいえ、これ以上は我慢の限界だった。
 タガが外れたかのように、彼女を後ろからきつく抱き締める。
「七緒さん、好きだよ。愛してる、愛してるよ、七緒さん……!」
 言わずにはいられないよ。
「あ、私、も……愛して、る」
「愛してるんだ、七緒さん……!」
 うわ言の様に彼女へ愛の言葉を浴びせながら、自分の浴衣の裾を腰まで捲り上げた。彼女の褌を再び横にずらし、これ以上は無いほど硬く膨れ上がったモノを七緒さんの濡れそぼった肉へあてがい、愛しさのまま一気に奥へ滑らせた。
「あ、あーーっ……! ひぁっ、ああっ」
 揺れる腰を両手で押さえ付け、生温く僕を呑み込む感触に浸る。
「あー……気持ちいい……七緒さん濡れ過ぎ……締め付け過ぎ」
「そういう、こと、あ……言わな、いで……っ」
 早くも快感が駆け上るのを、奥歯を噛んで押し殺した。堪えないとすぐにでも出してしまいそうだ。ゆっくりと腰を動かし、少しずつ速度を速めていく。
「ああ、あっ、壮介、さん……! あ、んんっ」
 突きながら、彼女の胸の下で締められた腰紐も解いて浴衣の合わせを緩ませ、一気に剥いで両肩を露出させた。現れた和装ブラの前ファスナーを下ろし、それも脱がせてしまう。
「いやぁ、あっあっ」
 腰で結わかれたもう一本の腰紐の部分まで、色の白い上半身が露わになった。後ろから両方の二の腕を掴んで、激しく腰を打ち付ける。彼女の喘ぎ声が僕をさらに追い詰めていった。
「あ、は、恥ずかしい、やめて……っ、やめ、壮介さ、あん、あっ」
 背中を反らせ、大きな乳房を上下に揺らしている七緒さんが、やめてと喘いでいるけれど、止められるわけがない。
「も、う……私、もう……」
「いいよ、七緒さん」
「……私、だけ? 私、あ、う……ふっ、ううっ」
 腕を放した手のひらで、後ろから彼女の大きく柔らかな乳房を強く揉みしだいた。手のひらから零れそうになるそれを包みながら先端を弄び、囁く。
「……七緒さん、いきなよ」
「い、や、寂しい、から、壮介さんも……一緒に、壮介さん」
 艶のある声で僕の名前を呼び続ける、愛しい人。
「七緒さん、最近いやらしくなったよね、ずいぶん」
「え、あっあっ、んっぁあ、ああっ」
 返事をさせないほど激しく突いて喘がせる。
「褌、なんて……着けて、何でもないって、顔して、僕の隣で……ご飯……食べてさ」
 両方の乳首を摘まんで捏ねると、途端に内が強く締まった。
「ぁあっ、だから、ちが、うの、これは、ちがっ」
「……期待してたんでしょ? ここに来る前から」
 左手を移動させ、僕を受け入れている場所に伸ばして探る。密やかに膨らんだ小さく硬い突起を指で優しく押し上げた。
「あ、んんっ、やぁ!」
 跳ね上がりそうになる体を右手で押さえ付け、摘まんだ芽を指で何度も弾き、僕のモノで突き続けた。
「……こうして、ぐちゃぐちゃにされたかった?」
「も、だめ! いっちゃ、う……! んっんんーっ」
 浴衣に咲く藤の花が、七緒さんの嬌声と共に匂い立ったような気がした。

 畳に敷かれた布団へ彼女ごと雪崩れ込む。僕は自分の帯をほどいて浴衣を脱いだ。
 七緒さんの裾の乱れた足を大きくひらかせた。彼女の上半身は剥き出しで、腰紐が何とか浴衣を留めている状態だ。
「これも取っちゃうよ」
 可愛らしい色をした褌に手を掛ける。
「全く、どこで買ったんだよ。僕の知らないところで、こういうことしてさ」
 今日彼女が身に着けている物は全部僕が、と自己満足したばかりだったのに。
「つ、通販、で……」
「ははっ、正直だね、七緒さんは」
 虚ろな目で答えた彼女の額の汗を拭った。可愛いねよ、七緒さんは。
 仰向けに寝る彼女に覆い被さり、気持ちを込めて、これ以上はないというほど優しく丁寧にキスをした。舐めて絡めて互いの舌が溶け合ってしまうほどに。
「七緒さん色っぽくなったよね」
 目を細めて、彼女の瞳を覗き込みながら、再び中へ挿入した。今さっき挿れた時よりも温かいそこは、僕を受け入れるのに何の抵抗も示さなかった。
「あ、今……いったばっかり、だから……」
 呟いた彼女の胸に顔を埋め、湿り気を帯びた肌を舐める。そこから上目遣いで言葉を掛けた。
「いいんでしょ? 七緒さん好きじゃない、こうされるの」
 彼女の中で蕩けそうになる自身を深く深く奥へ探り入れる。ゆっくり引き抜いては打ち付け、引き抜いては……その度に、持ち合わせていた筈の一握りの余裕は失われていった。
「あっ、ああっ、あっ」
 速めた動きに合わせて、甘い声が部屋中に響き渡った。
「縁日で、他の男が七緒さんのこと見てたの……気付いた……?」
「し、知らな……そんなこと、有り得な、い」
「駄目だよ、七緒さんは僕のものなんだから。誰にも触れさせない」
 七緒さんに出逢ってから、駄目なんだ。誰にも見せたくない、触れさせたくない、この先もずっと……そう思ってしまう自分が常にいる。
 揺れる乳房の先端に吸い付くと、腰を浮かせた彼女が僕に足を絡ませた。
「気持ちいいの? 七緒さん」
 口の中で硬くなる乳首を執拗にしゃぶって舌で転がす。
「い、い……! いいの、ぁあっ、いい……あ、好き……! 壮介、さ……ん!!」
 僕の肩にしがみつき、僕を好きだと涙を流すその表情に捉えられた。
「僕も……好きだよ、七緒さ、ん……っ! あ、ああ……」
 奥から駆け上った愉悦に抗えず、彼女の唇に吸い付いた。
 手懐けられない僕の欲を受け止める彼女の温かく深い奥に縋り……全てを吐き出し塗り付けた。……所有欲の、ままに。

 部屋の露天風呂で互いの体を洗い合い、湯船に浸かった。桶に入れておいたものを手にした七緒さんが僕に訊ねる。
「これも入れていい?」
「水風船?」
「うん。小さい頃、夜店で買った日はお風呂に浮かべて遊んだの」
「どうぞ」
 七緒さんを僕の前に座らせ、その背中を凭れさせた。見上げると空に輝く黄色い月。同時に顔を上げた彼女が呟いた。
「あ、月……」
「綺麗だね」
「はい」
「いや、七緒さんが」
「え」
 無造作に纏めた彼女の髪が、僕の鼻先を掠める。
「さっきも言ったけど、最近七緒さん色気すごいから気を付けてよ?」
「壮介さんの考え過ぎです。他の人が見てるなんて、そんなことないのに」
「そんなことあるって。気が気じゃないんだよ、僕は」
 湯船にも月が映っていた。妖艶な光を指で払い、お湯を跳ねさせる。
「壮介さんが大事にしてくれるから、幸せオーラは出てるかもしれないけど……」
「僕のせいだったのか」
「そうですよ」
 ふふ、と笑った彼女の横顔は本当に綺麗だった。届きそうで届かない、湯船に浮かぶ月のような、そんな笑顔。
 水風船がお湯の上を滑り、月に重なった。慌てた僕は咄嗟に手を伸ばし、水風船を掴んで……月を手に入れた。
「どうしたの?」
「何でも」
 後ろからそっと彼女を抱き締める。
「大好きだよ、七緒さん」
「私も、大好き」
 水風船を持つ僕の手に彼女の手が重なった。二度と心が離れて行かない様に、一生掛けて幸せにするから。
「ずっと離さないから、一緒にいて」
「うん……離さないで」
「じゃあ、布団に戻ったらもう一回ね」
「え……! うん」
 俯いた彼女のうなじに願いを込めて、口付けた。



次話はその後、秋に挙式をする二人のお話です。