先生やって何がわるい!

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(14)これが噂のもんぺあ!?(2)




 どうしてこうなった。
 昼食後の外遊びが終わり、部屋へ入った途端、お漏らしくん発生。で、着替えさせて、トイレで何だかんだして……戻ったらこれだよ。

「あゆびとおゆびが、ごっつんこー」
「きよかせんせー、もう一回てあそびしてー」
「もうおしまい。次は紙芝居の始まり、始まりー」
 ぱちぱちと座っている子どもたちから拍手が起きる。
「……」
 何度言ったらわかるんだよ。いや、言ってないけど。俺が担任で、あなたは補助ですよね!? 何で皆の前に座って手遊びして、今日俺が読むはずだった紙芝居取り出して、普通に読んでんの!?
 俺、あんまり怒る方じゃないんだけどさ。今まで、お片付けとか、ちょっとした合間の手遊びくらいなら黙ってた。でもさ、ちょっといい加減にしてくんないかな、これ。
 ムッとしたままの顔で、床へ大きな音を立てて座ってやった。子どもが何人かこっち見たけど、知るか。
 清香先生は気付かないフリしてるんだか、そのまま俺へ何も言わずに紙芝居を進めている。

「裕介先生」
 後ろからこそっと声を掛けられ、体操座りのまま顔だけ振り向くと、そこには梨子先生がいた。プリントを差し出している。入学式の、俺が困っていたあの時みたいに。
「あ、はい」
「これ、主任が手紙配っておいてって。急でごめんなさいって」
「わかりました」
「……大丈夫?」
 かがんだ梨子先生の心配そうな一言に、顔がかっと熱くなった。いつも掛けてくれるこの言葉を、今日は聞きたくなかった。
「別に、何がですか?」
 そう言い返すのが精一杯で、俺は梨子先生から顔を逸らして、受け取った手紙の束を見つめた。
「ううん。じゃあ、お願いします」
 同情されたのかよ。恥ずかしいなんてもんじゃない。俺の担任としてのプライドが、一気に傷ついた気がした。
 てるてるぼうずのお話を読む清香先生の声が、頭にがんがん響いている。でも内容なんてひとつも入ってこない。終わった途端、子どもたちが言った。
「きよかせんせー、ピアノひいてー」
「きよかせんせーおうた!」
 お前らも何盛り上がってんだよ。俺じゃなくていいのか? そんなに清香先生がいいのか?
「しょうがないなあ。裕介先生、いい?」
 いいわけないだろが! その非常識さにマジで頭に来て、思わず大人気なく怒鳴り返してやろうかと思ったその時だった。

 ――ひよこ2組、裕介先生、裕介先生、職員室までお願いします。

 なんだ? 初めて放送で呼び出されたぞ?
 仕方なく、あとは清香先生に任せ、廊下を小走りに急いだ。本当は嫌で嫌でたまらなかったけど。


 職員室へ飛び込むと、そこには俺を見つめる園長と、一人のお母さんがいた。あれ? 確かこの人……。
「こんにちは」
 頭を下げて挨拶をすると、その人は軽く会釈をしただけで、何も言ってはくれなかった。
「裕介先生、クラスは大丈夫?」
 親父、もとい園長の声がいつもと違った。
「あ、はい。清香先生へお願いしました」
「そうですか。じゃあ、ちょっと武井さんも一緒に園長室へ行きましょうか」
 武井……? たけい、まゆちゃんのお母さんか! 昨日手紙をくれた。それに、そうだ、そうだよ。懇談会で女の子のトイレについて突っ込んで来た人だ。まだ顔と名前が一致しなくて、俺……全然わかってなかった。


 職員室の隣にある園長室へ入ると、ふかふかとした絨毯の上に大きなソファが二つ置いてある。俺と園長が同じソファへ座り、向かいに武井さんが腰を下ろした。そのあとすぐに、まゆちゃんのお母さんは次から次へと俺たちへ質問を投げかけた。

 なぜ、怪我をしたその日に連絡をしなかったのか。
 なぜ、手紙を渡しても再び連絡をくれなかったのか。
 なぜ、このことを園長は知らないのか。
 なぜ、最近の自分の子ども様子を、帰り際にでも駆け寄って教えてはくれないのか。それが出来なかったとしても電話連絡くらいできないのか。
 なぜ年少へ来たのか。そもそもどうして幼稚園の先生になろうとしたのか。

 その全てを、まゆちゃんの母親は、俺ではなく園長へ顔を向けて発していた。俺が答えてもろくに返事をくれない。俺のことなんて見てくれない。まるでその場に俺はいないかのようだ。そうだ。さーちゃんに初めて話しかけた時と似ている。……俺の言い分は完全に、ゼロだ。
 なんで俺、昨日誰にも言わなかったんだろ。それともすぐにまゆちゃんのお母さんへ返事すれば良かったのか? でもあの手紙には、そんなこと一言も書いてなかったじゃないか。


 はっきり言って怖かった。園長がどうやって一つ一つ答えていったのかも、もう記憶にない。ただ、最後にまゆちゃんのお母さんが言った事だけが、俺の頭にこびりついて離れなかった。話し合いから解放されても、帰宅時間になっても、家に帰ってからもずっと。ずっと、離れない。


 ――お母さん達、皆言ってます。裕介先生は適任じゃないって。





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