片恋〜番外編〜高野視点

ズレてる友人




 自転車置き場にチャリンコを置いて、昇降口に向かう時だった。

「あの高野先輩! おはようございます」
 またか。一年生か? 結構可愛い女の子が俺の傍にやってきた。
「あの、あのこれ……」
 女の子は恥ずかしそうに真っ赤になって、俺に向かって手を差し出した。
「何? 手紙? プレゼント?」
「手紙です。お願いします」
「はいはい」
 ベタだけど下駄箱にでも入れりゃーいいのに。

 俺の下駄箱は……わかってる。空なのはわかってる。もしかして、なんて思った俺が間違ってた。
「あの、高野くん」
「はいはい。どれ?」
 もう振り向いてもやらない。
「これ、お願いね?」
「あたしも」
 プレゼントが二つ。
「俺のはないの?」
「え、あーごめーん」
「だって高野くんの彼女に怒られちゃうし?」
 だったらあいつも駄目だろうがよ!

 教室へ入り、自分の鞄を置き、そいつの席に向かった。
「涼、ほらよ」
 手紙とプレゼントを置いてやる。投げてやろうかほんとに。
「あー悪い、サンキュ」
「マジ迷惑なんだけど。しかもさ、皆俺にお礼とかないの。昨日はありがとうございました〜これ食べてください、とかさ、持って来いってんだよ!」
「お前彼女がいるんだから、いいだろ」
「お前もいるだろうが!」
 前の席が空いていたので、そこに座ってそいつを振り返る。

 俺の目の前にいる、この毎日のように女の子から手紙やらなんやらもらってる、羨ましい奴は吉田涼。悔しいけど、確かにな、確かにいい男だ。しかしだ。こいつは彼女いるんだぞ! みんな目を覚ませ、目を。
「お前さ、彼女に怒られないのかよ、こんなにいろいろもらって」
「別に。怒るような子だったらその場で別れてるし」
「うわ……嫌な奴だね、ほんとに」
 来る者拒まずなこいつは、こうして何でも受け取り、告白されまくり、さらにはしょっちゅう彼女を取り替えていた。ま、二股とか面倒なことはしてなかったけど、それにしてもよくそれで女の子達は黙ってるよな。

 でも、俺もわかる。こいつは本当は嫌な奴じゃない。人に気も使えるし、付き合いも悪い方じゃないし、男女分け隔てなくたいていの奴には優しい。何でもこなすけど、絶対に自慢しないし、嫌味な事も言わない。ま、だからかこんなんでも許されてるんだよな。

 それにしても……これは遺伝か何かか? 何でそう自然に女の子とべたべたできるんだよ。
「それ、何?」
「あ、えーとねこれは……」
 それ何って聞くだけで、肩に触る必要あるか? しかも聞かれた方も嬉しそうだし。と思ったら、今度は何か言いに来た後輩の頭撫でてるし。

 休み時間、こいつの席に弁当を持って行き、早弁しながら聞いてみた。
「涼、お前さ……」
「何?」
「よくそんだけ触れるな女の子に」
「別に、普通だろ?」
「彼女にはさらにべったりなわけ?」
「いや、逆」
「逆?」
「彼女にはそうでもない、ようにしてる」
「何で?」
「調子に乗られるの嫌いなんだよ、俺」
 は? 今、なんつった? なんかちょっと怖い言葉が聞こえた気がする。
「……お前の言ってる意味が、よくわからないんだけど」
 俺が箸の手を止めてまじまじ見つめると、涼は右手で頬杖をついて、目を伏せた。
「……なんかさ、付き合った途端、俺の事を自分のもの、みたいな感覚で来られるのが大っ嫌いなんだよな。だからそう思われないように、俺からはべたべたしないし、言われるほど優しくもしてない。かといってされんのもだんだん鬱陶しくなるんだけどさ、そういうのない?」
「……」
 ??? 何を言っているんだ? こいつは。俺はまだ口を開けて、涼の顔をさらにじっと見た。
「何?」
「お前、ちょっとおかしくないか、それ」
「何で?」
「彼女のこと好きなら、べたべたしたいだろ普通。何でそんなに冷めてんだよ」
「……そう? 逆に面倒くさくない?」
「はあ?! じゃあ、なんで付き合ってんだよ」
「別に。何となく、楽しいから?」
「……お前、最悪だな」
「悪い事はしてないと思うけど。遊びで付き合ってるわけじゃないし」
「……」

 多分こいつは、とんでもない事言ってるなんて、自分じゃ全然気がついてない。
 さっき言った通り、こいつは悪い奴じゃない。どっちかって言ったら、絶対にいい奴だ。けど、女の子に対してはちょっと、いやかなりずれてるよな。それとも俺がおかしい? いやいやいや、そうじゃないだろ。

 思わず俺の彼女に帰りの道すがら、相談してしまった。チャリンコを引っ張り、横に並んで土手沿いを歩く。

「さすが、って感じだね」
 彼女は感心したように言った。
「ちょっと、ずれてるよなあ?」
「告白されすぎて、麻痺してるんじゃないの?」
「それは、……あるかもな」
 俺の彼女は、すごくしっかりしてて現実的で、頼れる存在だ。可愛いっていうのとはちょっと違うけど、でも俺にはすごく合ってると思う。
「もしかしたら……でも違うかな」
「何だよ」
「これは女から見ての意見だから、流してね。もしかしたらさ、涼って本気で女の子のこと好きになったことないんじゃない?」
「え……」
「まず、振られたことも無さそうだし。どうせ別れるのも全部涼から言ってるんでしょ?」
「多分」
「告白だって涼からした、なんて聞いた事ないし」
「だよな」
「だから悪い事してる感覚ないんじゃない? こんなもんだくらいにしか思ってないんだよ、きっと」
 そういうことなわけ? だからああいう感覚?!

「てことはさ、本気になったらどうなるんだろうね」
「涼が?」
「そ、見てみたいなーあたし」
「あの調子じゃならないんじゃないの、一生。周りがほっとかないだろ」
「確かにね」
「乗る?」
「うん」
 話をしたかったからチャリンコを引っ張ってたんだけど、急に後ろに乗せたくなった。
 俺は涼が気に入ってる。けど、彼女に対するそういう感覚は理解できない。俺は自分の彼女はちゃんと大切にしようとか、思ってるからさ。女の子はみんな好きだけど、やっぱり彼女は別だしな。

 涼、お前そんなにモテても、そんなんじゃ恋愛の半分もわかってないんだぞ。本当は……ちっとも楽しくないんだろ? 
 お前がもしも、ほんとに好きな女の子ができたら、このチャリンコ貸してやる。それで、その子を後ろに乗っけてみてその時ようやくわかる筈だ。

 たったこれだけの事で、すごく幸せになることもあるんだってことが、さ。



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